
春になると食卓に並ぶ「つくし」。
卵とじや佃煮にすると独特のほろ苦さがおいしい一方で、
「つくしには発がん性があるって本当?」
「毒があるなら、あく抜きすれば大丈夫?」
「何本までなら食べてもいい?」
と心配になることがあります。
結論からいうと、一般に食用とされるつくし(スギナ、学名 Equisetum arvense)について、「食べると発がんする」と確認された科学的根拠はありません。
欧州医薬品庁(EMA)のスギナに関する評価でも、発がん性について適切な試験データ自体が不足しており、「発がん性が確認されている植物」とは評価されていません。日本の研究では、スギナを飼料の0.3〜3%としてラットへ13週間与えた試験で、試験条件下では毒性所見が確認されませんでした。
ただし、だからといって生のつくしを大量に、毎日食べても安全という意味ではありません。
スギナ類には、
- ビタミンB1を壊すチアミナーゼ
- 耐熱性のビタミンB1分解因子
- アルカロイドなどの植物成分
が知られています。特に大量・長期摂取については安全性データが十分ではありません。
そのため家庭では、
はかまを取る
→ たっぷりのお湯で2〜3分ゆでる
→ ゆで汁を捨てる
→ 冷水に取る
→ 小鉢程度を季節に数回楽しむ
くらいが現実的です。
「重曹で○分あく抜きすれば発がん物質がゼロになる」というような安全ラインは、つくしについて設定されていません。
この記事では、つくしの発がん性の真相、ワラビとの混同、あく抜きで何が変わるのか、食べる量の考え方まで詳しく解説します。
つくしに発がん性はある?
現在確認できる科学的情報からは、食用のつくしに、人での発がん性が確認されているとは言えません。
つくしはスギナの胞子茎です。
文部科学省の日本食品標準成分表にも、
「つくし/胞子茎/ゆで」
として食品成分が掲載されています。
一方、スギナについては毒性研究が非常に豊富というわけでもありません。
EMAの評価では、発がん性を含む一部の毒性試験について十分なデータがないとされています。つまり、
「発がん性が証明されている」でもなく、
「大量に長期間食べても絶対安全と証明されている」でもない
というのが正確な位置づけです。
「つくしには発がん物質がある」はワラビとの混同に注意
山菜の発がん性という話では、ワラビと混同されていることがあります。
ワラビには「プタキロサイド」という成分が含まれます。
厚生労働科学研究では、ワラビ中のプタキロサイドを発がん性物質として扱い、重曹によるあく抜きで大幅に減少することが報告されています。また、動物実験ではプタキロサイドによる発がん性も確認されています。
しかし、
ワラビ=Pteridium aquilinum
と、
つくし=Equisetum arvense
は別の植物です。
「山菜には発がん物質がある」という話を、そのままつくしへ当てはめないようにしましょう。
| 山菜 | 学名の例 | 注意される成分 |
|---|---|---|
| つくし | Equisetum arvense | チアミナーゼ、耐熱性B1分解因子など |
| ワラビ | Pteridium aquilinum | プタキロサイド |
| ふき・ふきのとう | Petasites japonicus | ピロリジジンアルカロイド類 |
植物によって問題になる天然成分は違います。
つくしで本当に注意したいのはビタミンB1分解作用
つくしで発がん性以上に根拠がある注意点が、ビタミンB1との関係です。
スギナにはチアミナーゼと呼ばれる酵素が含まれることが知られています。
チアミナーゼは、ビタミンB1を分解して働けない形にする酵素です。植物由来のチアミナーゼは加熱で失活しやすく、調理によってその作用を減らせるとされています。
大量のスギナを継続的に摂取した動物では、ビタミンB1不足に関連する問題が古くから知られています。EMAの評価資料でも、スギナのチアミン分解作用について動物での報告がまとめられています。
つまり問題になりやすいのは、
春につくしの卵とじを少し食べた
という使い方より、
生または十分処理していないスギナ類を、大量に長期間摂取する
ようなケースです。
加熱すればビタミンB1への影響は全部なくなる?
ここは少し複雑です。
「チアミナーゼは熱に弱いから、ゆでれば完全に問題なし」と言い切るのも正確ではありません。
日本では1950年代から、つくしに耐熱性のビタミンB1分解因子が存在することが研究されています。
静岡大学の研究では、つくし抽出物からビタミンB1を分解する作用を持つ成分が確認され、その一部は耐熱性の因子として検討されています。
つまり、
加熱で失活しやすいチアミナーゼ
とは別に、
熱を加えても残り得るB1分解性の植物成分
があるということです。
このため、
「10分ゆでたから、つくしを毎日大量に食べても大丈夫」
とは考えないほうがよいでしょう。
では、つくしのあく抜きには意味がない?
意味はあります。
家庭でつくしを食べるなら、下ゆでと水さらしをしたほうがよいでしょう。
つくしを販売している道の駅かなんでは、
- はかまを取る
- 2〜3分ゆでる
- ざるに上げて冷水に取る
という下処理を案内しています。
福岡県遠賀町の郷土料理でも、つくしの卵とじについて、はかまを取って十分洗ったあと、たっぷりのお湯でゆでて水にさらし、あくを抜く方法が紹介されています。
あく抜きには、
- 苦味・えぐみを減らす
- 水に溶けやすい成分をゆで汁へ移す
- 加熱で失活する酵素の働きを抑える
という意味があります。
あく抜きすれば発がん性はなくなる?
この表現はおすすめできません。
そもそも現在のところ、つくしに対して、
「この発がん物質が○mg含まれており、あく抜きすると○%減る」
というワラビのプタキロサイドのような確立した話がありません。
したがって、
つくしをあく抜きする
=発がん物質を除去する
と説明するのは不正確です。
あく抜きは、
苦味を減らし、加熱・水さらしによって一部の好ましくない成分への曝露を減らすため
と考えるほうがよいでしょう。
つくしは生で食べないほうがいい
つくしを採って、その場で生のまま食べるのはおすすめしません。
スギナにはビタミンB1を分解するチアミナーゼが知られており、植物由来のチアミナーゼは加熱で失活させることができます。
また、野草には、
- 土
- 微生物
- 動物の排泄物
- 農薬などの飛散
- ほかの植物の混入
といった別の問題もあります。
採取したつくしは十分洗い、加熱して食べましょう。
つくしの安全なあく抜き方法
家庭なら、複雑な処理は必要ありません。
1. はかまをすべて取る
茎の節に付いている茶色い部分が「はかま」です。
硬く繊維質なので、基本的に取り除きます。
2. 流水でよく洗う
土や砂が残らないように何度か洗います。
道路脇などで採ったものは、そもそも食用にしないほうが無難です。
3. たっぷりのお湯を沸かす
つくしに対して十分な量のお湯を使います。
4. 2〜3分程度ゆでる
道の駅かなんでは2〜3分の下ゆでが紹介されています。
極端に長く煮る必要はありません。
5. ゆで汁は捨てる
あくを含んだゆで汁を料理へ再利用しないほうが、あく抜きという目的には合っています。
6. 冷水へ取る
ざるへ上げて冷水へ移します。
苦味が強い場合は少し水へさらして調整します。
7. その後しっかり加熱調理する
卵とじ、佃煮、炒め物などに使います。
重曹は必要?
通常のつくし料理なら、必ずしも重曹は必要ありません。
「山菜のあく抜き=重曹」というイメージがありますが、つくしは普通のお湯で下ゆでし、水へ取る方法も一般的です。
重曹を多く使うと、
- 柔らかくなりすぎる
- 色や食感が変わる
- 独特の風味が出る
ことがあります。
ワラビで重曹あく抜きが重要なのと、つくしは分けて考えましょう。
何分水にさらせば安全?
「○分さらせば毒性がゼロになる」という基準はありません。
苦味を抜くという料理上の目的なら、下ゆで後に冷水へ取り、味を見ながら調整できます。
重要なのは、
水さらしの時間を長くすれば長くするほど安全になる
と考えないことです。
つくしについて、特定の毒素の濃度と水さらし時間をもとにした公的な安全基準は設定されていません。
つくしは1日に何本まで?
これも、
「1日○本までなら安全」
という公的な基準はありません。
つくしは大きさも違うため、本数で管理する意味もあまりありません。
安全性を考えるなら、
毎日大量に食べる食品ではなく、春の山菜として少量をときどき楽しむ
という位置づけが妥当です。
家庭で量の感覚がわからない場合は、下ゆでしたつくし20〜30g程度の小鉢1皿分を1人分の実用的な目安にすると、極端な大量摂取を避けやすくなります。
ただし、これは毒性研究から算出された「安全上限」ではありません。
少量にとどめるための料理上の目安です。
50g食べたら危険?
1回50g食べたから直ちに中毒になる、というデータはありません。
日本ではつくしを数十〜数百グラム使った郷土料理のレシピも存在し、季節の食品として長く食べられてきました。
さらに、スギナを0.3%、1%、3%混ぜた飼料をラットへ13週間与えた試験では、臨床症状、血液検査、臓器重量、病理組織などに投与に関連する毒性は確認されませんでした。
ただし、この動物試験の数字をそのまま、
「人間なら1日○gまで大丈夫」
と換算することはできません。
普通の食品として少量食べることと、抽出物や大量のスギナを毎日摂取することは分けて考える必要があります。
毎日つくしを食べるのは?
おすすめしません。
つくしは季節の山菜として食べる食品であり、日常的に大量摂取することを前提に安全性が確立している食品ではありません。
スギナにはチアミンを分解する作用が知られ、長期的な大量摂取ではビタミンB1不足が懸念されます。
たとえば、
春の数日に、小鉢で食べる
のと、
乾燥つくし・スギナ粉末を毎日大量に食べる
のはまったく別の摂取方法です。
健康目的で大量摂取するのは避けましょう。
つくし茶・スギナ茶なら安全?
食用のつくしと、スギナを乾燥させたハーブ・健康食品も区別する必要があります。
スギナ由来のハーブ製品については欧州でも伝統的な利用がありますが、EMAは安全性データが限定されていることも示しています。
「天然のお茶だから毎日何リットル飲んでも安全」とは言えません。
特に通常の食事としてつくしを数口食べる場合より、濃縮エキスやサプリメントでは摂取条件が大きく変わります。
妊娠中につくしを食べてもいい?
妊娠中に食用として少量のつくしを食べたことで問題が起こるとする確立したデータはありません。
ただし、スギナ由来の薬用・ハーブ製品については、妊娠・授乳中の安全性情報が不足しているため、積極的な使用は推奨されていません。
そのため妊娠中は、
「体にいいらしいからスギナ茶を毎日大量に飲む」
といった使い方は避けたほうがよいでしょう。
季節の山菜として食べる場合も、十分にあく抜き・加熱し、少量にします。
ビタミンB1不足が気になる人は大量に食べない
つくし・スギナの注意点がビタミンB1分解作用である以上、もともと栄養状態が悪い人ほど大量摂取は避けたいところです。
特に、
- 極端な食事制限をしている
- 食事量が非常に少ない
- 偏った食生活が続いている
- 長期間、多量の飲酒が続いている
など、ビタミンB1不足のリスクが高い人は、つくしやスギナを健康食品のように大量摂取しないほうがよいでしょう。
普通の食事を取りながら、春の小鉢として食べる程度と区別してください。
つくしの頭は食べてもいい?
頭の胞子部分も一般には食べられています。
ただし成熟が進み、胞子が開いているものは食感や風味が落ちることがあります。
道の駅かなんでは、頭がしっかり締まり、胞子を散らしていないものを選ぶポイントとして紹介しています。
食べやすさを優先するなら、若く締まったつくしを選びましょう。
道端のつくしは食べてもいい?
どこに生えているかも重要です。
避けたいのは、
- 車通りの多い道路脇
- 犬の散歩が多い場所
- 農薬・除草剤が使われた可能性のある場所
- 私有地
- 工場や排水路の近く
- 植物を正確に判別できない場所
です。
あく抜きをしても、すべての環境由来の汚染物質を除去できるとは限りません。
できれば食用として販売されているものや、管理状況がわかる場所のものを利用しましょう。
つくしと似た植物を間違えない
野草を自分で採取するときは、食用植物を正確に判別する必要があります。
スギナ属には複数の種類があり、海外では別種の Equisetum palustre などに家畜毒性が知られています。アルカロイドなどの構成も種によって異なります。
「スギナっぽいから全部つくし」と判断して食べるのは避けてください。
判別できないものは食べないのが基本です。
「苦いほど毒が多い」は本当?
苦味だけで安全性を判断することはできません。
つくしにはもともと独特のほろ苦さがあります。
農林水産省も、つくしについて苦味があり、食べる際には食用に適さない部分の除去やあく抜きが必要と紹介しています。
ただし、
苦味が消えた=天然成分が完全に除去された
わけではありません。
反対に、
少し苦い=危険
とも言えません。
味はあく抜きの程度を判断する料理上の目安であって、毒性検査ではないのです。
天ぷらなら下ゆでしなくてもいい?
つくしの天ぷらでは、下ゆでせず揚げるレシピもあります。
ただ、安全性を優先するなら、ビタミンB1分解作用を持つ成分が知られていることから、十分に加熱して食べることは重要です。
苦味も含めて確実に下処理したい場合は、ゆでて水へ取ってから卵とじや佃煮にする料理のほうが管理しやすいでしょう。
あく抜きしたつくしの保存は?
あく抜き後も長期保存できる食品になるわけではありません。
道の駅かなんでは、購入当日か翌日までにあく抜きを行い、下処理後は冷蔵で3日程度を目安としています。冷凍保存も可能です。
大量に採った場合は、
毎日大量に食べて消費する
のではなく、下処理して小分け冷凍するほうがよいでしょう。
つくしの発がん性についてよくある質問
つくしには発がん物質が入っていますか?
食用のつくしについて、ワラビのプタキロサイドのように「この成分による発がん性が確認されている」とする確立したデータは確認されていません。
一方、長期的な発がん性試験自体が十分ではないため、「大量に毎日食べても絶対安全」と証明されているわけでもありません。
ワラビと同じ発がん物質があるの?
同じと考える根拠はありません。
ワラビではプタキロサイドという発がん性成分が知られていますが、つくしは別の植物です。
つくしの毒は何?
注意されるものとして、ビタミンB1を分解するチアミナーゼや耐熱性B1分解因子などがあります。
あく抜きすれば安全?
適切な下ゆで・水さらしは行ったほうがよいでしょう。
ただし、「2分ゆでればすべての天然成分がゼロになる」という意味ではありません。
何分ゆでればいい?
家庭では2〜3分程度ゆでて冷水に取る方法が紹介されています。
太さや量によって加熱具合を調整してください。
重曹であく抜きしたほうが安全?
つくしでは重曹が必須という根拠はありません。
普通のお湯でゆで、水にさらす方法が一般的です。
つくしは1日何本まで?
本数による公的な安全基準はありません。
毎日大量に食べるのではなく、十分にあく抜きしたものを季節の副菜として少量食べるのが無難です。
毎日食べてもいい?
おすすめしません。
スギナにはチアミンを分解する作用が知られ、長期・大量摂取についての安全性情報も十分ではありません。
生で食べてもいい?
生食は避け、加熱しましょう。
チアミナーゼは加熱で失活させることができます。
まとめ|つくしは「発がん性食品」と決めつけなくていい。ただし、あく抜きして少量を
つくしについて、
「発がん物質が入っているから食べてはいけない」
と断定できる科学的根拠は確認されていません。
スギナの発がん性については十分な試験データがなく、人で発がん性が確認された食品として扱われているわけでもありません。13週間のラット試験では、飼料中3%までの条件で投与に関連する毒性所見は確認されませんでした。
山菜の「発がん性」の話では、むしろワラビのプタキロサイドとの混同に注意が必要です。ワラビとつくしは別の植物です。
つくしでより具体的に注意したいのは、ビタミンB1を分解する作用です。
チアミナーゼは加熱で失活しやすい一方、つくしには耐熱性のビタミンB1分解因子も報告されています。
だからこそ、
生で食べない
↓
はかまを取る
↓
十分洗う
↓
2〜3分ほど下ゆでする
↓
ゆで汁を捨てる
↓
冷水へ取る
↓
小鉢程度をときどき食べる
という昔ながらの食べ方が合理的です。
「何gなら絶対安全」という公的なラインはありません。
目安が欲しいなら、下ゆで後20〜30g程度の小鉢1皿を、春にときどき楽しむくらいを保守的な料理上の目安にするとよいでしょう。これは毒性試験から算出された上限ではありません。
一番避けたいのは、
あく抜きせず生で大量に食べることと、
健康によいと思ってスギナ・つくしを毎日大量摂取することです。
つくしは薬や健康食品として大量に取るものではなく、きちんと下処理して、ほろ苦い春の山菜として少量楽しむ。
その食べ方なら、「発がん性があるらしい」と過度に怖がる必要はないでしょう。

